サムライスピリッツ


■ 対戦格闘ゲームの革命児 ■


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カプコンがスト2で対戦格闘ゲームというものを成立させて以来、

バーチャファイター2が格ゲー大革命を起こすまで、

対戦格闘というジャンルは、大きな変化を迎えてはいなかった。

スト2形式のゲームから逸脱することはなかった。というか、逸脱したゲームは成功しなかった。

それでも、このサムライスピリッツは革命児である。逸脱したゲームではないのに小さな革命が起こった。

時代的には、対戦格闘といえばカプコンと世間に認知されていた。

『連続技がない』という痛い出来ながらも、ラインや超必殺技、避け攻撃で『餓狼伝説2』を成功させ、名を上げたSNK。

ネオジオを母体に、頭角をムキムキにあらわしてきていた。

新日本企画さんですよ。S・N・K!みんな叫ぼうぜ!

まぁ、叫ぶなら100メガショック!ネ・オ・ジ・オ!か。

餓狼伝説スペシャルが先行で宣伝され、ゲームファンがネオジオに注目しつつあった。

そんな中、当時の先端アーケード情報誌・ゲーメストに先行紹介されることもなく、

何の前触れもなく、超絶にインパクトのあるTVCMで彗星のように現れた『サムライスピリッツ』。

とにかく忍者たちのカッコよさといったらなかった。

 

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●覇王丸(浪人?) ●橘右京(侍) ●柳生十兵衛(侍・剣客) ●千両狂死郎(歌舞伎役者)

●シャルロット(騎士) ●タムタム(異国戦士?アフリカっぽい) ●不知火幻庵(忍者?) ●アースクエイク(忍者)

●服部半蔵(忍者) ●ガルフォード(忍者) ●ナコルル(アイヌ戦士?) ●ワンフー(中華戦士?)

 

12人。とにかく忍者も外人もふんだんに存在するわけで、どこが侍魂なのかさっぱりではあるが、

このインパクトと派手さは、やはりこの初代が一番。 ラスボスは、天草四郎。やたら派手だった。

以後、真サムや、天草光臨でのテコ入れは見事だったが、ゲーム性・インパクトともに初代を超えることはなかった。

続編として家庭専用も含め10作以上も出ており、シンプルなナンバリングものとしては、かなり多い方だといえる。

ここまで続編を出させたそのゲーム性とはいかなるものだったのだろうか。

そして小さな革命とはなんだったのか。


 ■ 真剣勝負の醍醐味 ■


基本的にスト2のゲーム性から逸脱してはいない。

レバー入力は、スト2とは違う点だけ書いておく。

キャラが左に居た場合、4、4でバックステップ。6、6でダッシュ。

近年のゲームと異なり、バクステよりもダッシュが強い。待ちが強いゲームとしては珍しいかもしれない。

ちなみに、真サムでは、まだ操作が増える。

1、1で後転。面白いシステムだと思うが使えない。

3、3で前転。後年の別ゲームでは猛威を振るうが、このゲームではさほど使えない。

とても前衛的なシステムが導入されているにも関わらず、特に生かされてはいない。

今から考えれば、とても不思議なことではある。

ボタンの方だが、スト2の6ボタンとことなり、ネオジオは4ボタンであるので、

小PK、中PKの4ボタン。WP(両P)、WK(両K)により大P、大Kが繰り出される。

近年では、同時押しによる特殊技も多く、大して珍しくもないが、

当時は特殊といえば特殊で、同時押しで大斬りを繰り出すと、

特に『強力な技を繰り出している!』という実感が味わえた。

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この大P、いや大斬りと言ったほうがいいか。この大斬りを当てる。

これそのものが、このサムライスピリッツの醍醐味。もう、それ以外ない。

普通の格闘ゲームで大Pを当てるのとは違う。時代劇で使われているような斬撃音。

すさまじい威力。ヒットストップの長さが、その重さを物語る。

技をガードしたり、技を食らったりすると、怒ゲージが上昇。

これがマックスになった状態の大斬りは、即死級。とかく大斬りが恐ろしく感じる作りになっている。

斬撃一発死を軸にしてブシドーブレードは、話題にはなったものの鼻つまみものであった。

比較すると雲泥の差がある。似たコンセプトなのに、その評価は全く異なる。

大斬りだけをクローズアップして話を進めているが、

斬りに大してパンチやキックが非常に有効だったりと、とてもゲーム的なバランスがすばらしい。

キックが意外に強く、困るくらいに強い大斬りに対する直接的な対抗技がキックだったりする。

でも威力は低い。とてもゲーム的だ。

 

余分な要素と叩かれたこともある”つばぜり合い”。今となってはむしろ新鮮でもあるが、技がかち合うと発生し、

不毛と言われた”連打勝負”で、武器を落とすこともある。アクセントである。すばらしい。

初代以降は、武器破壊なんてものもある。今となっては、大斬りを狙い合うゲームにおいて、

武器破壊なんてものは、『そればかり狙う技』となることは明確で、明らかな蛇足であることがわかる。

 

しかし素手になったからといって、戦えないことはないゲームバランス。それでもやっぱり素手では心もとない。

やっぱり大斬りじゃないと、となる。

このド派手なゲームで、大斬りを当てることにだけに焦点が絞られていることに今更ながら感心する。

必殺技はどれも派手極まりないが、上手に使わないと大斬りを食らう隙を簡単に作ってしまう。

とても使い方が難しいものがほとんど。

では、大斬りをブンブン振り回していればいいかというと、実はそうなんだが、それだけでは勝てない。

ガードさせた後、空振りには、困ったくらいの隙がある。

そこで、リーチのある中技で牽制したり、隙の少ない必殺技で牽制して隙を見つけていくというジリジリとした展開が、境地となる。

 

大斬りによるジャンプ斬りも強烈。

一部の通常技を除いては、絶対的な対空兵器がないので、ジャンプ攻撃で対抗するのが一番いい。

大斬りを警戒して地上ガードを固める展開となるのに、ジャンプには対空ジャンプなんて、大きな行動を取らざるを得ない。

ガードが固くなっている相手に、空ジャンプ・すかしジャンプなどから投げや、ダッシュから投げを狙う。

こういった静と動のメリハリが、初代サムライスピリッツが作り出したゲーム性である。

 

シリーズを追うごとに付加的攻撃方法がドンドン追加されるが、この静と動を基本とした駆け引きはずっと続いていく。

気が遠くなるほどに数多くの格闘ゲームが登場したが、大斬りなる強力な攻撃を

隙を見つけたり、誘ったりしながら狙い当てるゲームとして完成させたゲームは、このゲームだけなのである。

これは小さくはあったが、明らかな革命であった。

 


 ■ ゲームバランス ■


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お世辞にもバランスがいいとは言えない。

千両狂死郎、シャルロット、橘右京の強さが突出している。

説明しようにも、基本穴がほとんどないキャラなので説明が長くなる。強い部分が多すぎる。

僕がもっとも納得いってないのは、橘右京の燕返し。伏大Kも絶対的に強いが威力は高くない。

燕返しはジャンプから出し、巨大判定・高威力の打撃+変則軌道の飛び道具が出る。

出るといってもそう簡単に出せる必殺技ではないが、研究が進み地上からいきなりだすこともできるように。

これがジャンプ、地上、バクステから繰り出され始めると手がつけられない。

この初心者殺しから始まって、上級者まで安定して殺してしまう必殺技が強すぎてどうも納得がいってない。

 

三強に次ぐ実力があるキャラは、安定した大斬り・中突きを持つ覇王丸。

そして飛び込み・飛び道具・中突きが強く、削りが安定している柳生十兵衛。

それ以外のキャラは、最終的には、一芸に秀でたキャラだといえる。

三強を除いては、下位キャラでも十分上位を食える実力がある。

下位キャラが一芸に秀でており気が抜けないようなバランスは、以後さまざまな対戦格闘ゲームが発表されるが、

すぐれた対戦ツールとして機能する格闘ゲームの大きな特徴であるといえる。


■ 不完全さ ■


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初代サムライスピリッツの時代に発表されていたSNKのゲームは、

拡大縮小をゲームに取り入れているものが多い。

大胆に拡大縮小するゲームほど、失敗作が目立つ。

このサムライスピリッツシリーズでも、それは使われているが、

他のゲームに比べると、それは上手く機能している。

ゲーム性を考えると、ありえなくくらい間合いをとってやたら小さな表示になるのはどうか

とも思えるが、間合いを詰める手段が豊富なため、静と動を表すのに大きく機能している。

この拡大縮小は、シリーズを追うごとにスムーズになっていくが、

静と動の醍醐味は、薄れていった。これもバランスがなせる技だったのかもしれない。

 

また、この初代は、どうも技の当たりがおかしい。届きそうな間合いで届かない。

いや、単なるイメージとの相違なだけで、実際に届いてはいないのだろうが。

この感覚、カプコンの初代スト3と非常に似ている。慣れないと思うように技が当たらない。

スト3というやつは、初代(ニュージェネレイション)、セカンドインパクト、サードストライクと三作もでている。

サードストライクが都市型ゲームとして、闘劇を火種にブレイクしたが、

お世辞にも成功したシリーズとは言えない。

失敗した大きな原因ではないが、初代はとにかく技が当たりにくい。

これはどういうことかというと、アニメパターンが豊富なスト3において、製作者の意向で、

そのアニメパターン一つ、一つに丁寧に当たり判定をつけた結果なのだ。

普通の格闘ゲームは、もっと雑に当たり判定がつけられており、

アニメとは関係なく直感的に当たる当たらないといった感覚で技が振れる。

その方が技が当てやすい。丁寧にアニメどおりに当たり判定をつけた結果が遊び辛いというのは、

皮肉なかぎりだが、かつては納得いく結果が得られるように、丁寧に当たり判定をつける要望が

世にあふれていた時期だったのだ。遊びにくさの実感から、そんな世論も薄れていく。

セカンドインパクトからは、いままでどおりの判定に近づけたそうだ。

 

ではサムライスピリッツがどうだったかというと、真の部分は闇の中である。

初代サムライスピリッツは特別、アニメパターンの多いゲームでもないし、

見た目どおりの当たり判定にこだわったせいで当たりが悪いのかは知らないが、

似たような感覚がある以上、何かしら原因がある気がする。

僕は、斬りと移動が同時に行われる技が多く、判定ごと移動してしまって、すり抜けが発生したり、

技の初動で前進、技の後半で元の位置に戻る技などで、判定ごと移動してしまい、

すり抜けてしまうことがあるのではないかと推理している。

そう思うととても荒削りなゲームなわけだが、だからこそ尚更、

間合い・攻撃を仕掛けるタイミングが非常に重要で、連打などで連続技が成立するようなことが

ほとんどない。

偶然の生んだ真剣勝負の醍醐味が、この初代サムライスピリッツにはある。

 


 ■ 究極のサムライスピリッツ ■


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真剣勝負の醍醐味が詰まった初代サムライスピリッツ。

偶発的に初心者が上級者を倒すことがある。

その原因のほとんどは、怒りゲージの効果。

ゲージは、主に技をガードするか、技を喰らうかすると、上昇するわけだが、

技を喰らったほうが、圧倒的に上昇が早い。

コンボゲーのように技で行動を固めてしまう展開に対するアンチテーゼ、

負けている側が逆転できるチャンスを得る逆転性の実現。

これは、真剣勝負の世界を描いた初代サムライスピリッツにとてもマッチしている。

 

大攻撃単発ヒットのゲージ上昇が飛びぬけており、

中攻撃で牽制しながら、隙に大攻撃を叩き込むという、上級者の戦法ほど、

相手のゲージが溜まりやすい現象が起きてしまう。

 

腕があがればあがるほど相手の逆転に恐れながら戦うようになりがちな部分がある。

腕があがっているのに、それに対する優越感が味わいにくい面がある。

いや、逆転性があがる仕組みなのだから、対戦ツールとしてすばらしいはずなんだが、

人間とは贅沢なものなのだ。

これを感動的なほどに解消したサムライスピリッツ作品がある。

 

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タイトルは、カプコンvsSNK2。カプコンとSNKがコラボしたvsシリーズ。カプコン製作。

このゲームは、カプコン・SNK側の代表的なシステムを3つずつ、合計6つに

分けて用意し、カプコン・SNK全キャラ、6システムから選択して遊べる快作である。

このゲームの目玉は、なんと言っても、サムライスピリッツから覇王丸の参戦であった。

彼用と言っても過言ではないサムライスピリッツベースのKグループというシステムもある。

このKグループシステムが秀逸なのだ。

初代サムライスピリッツの怒ゲージに、別シリーズで生まれたシステムが組み込まれている。

カプコンが発明したブロッキングという優れた防御システムがあるが、

それをSNKが模倣したと言われているジャストディフェンス。これが組み込まれている。

ジャストディフェンスは、攻撃がガードできるギリギリまでひきつけてガードすることによって、

発動するシステム。 

ガード後、ガード硬直なしに動けたり、アドバンシングガードのように相手を後ろに押し返したりする

恩恵を得ることができる。

それよりも、Kグループでは、ジャストディフェンスを成功させることで、

怒ゲージが飛躍的に上昇することがすばらしい。

これは、KOFで実現されたシステムで、生まれては消えしている模索的システムだった。

これが、非常にサムライスピリッツにハマる。

もちろん、技を喰らってもゲージは上昇するので、逆転性の高さはそのまま。

ジャストディフェンスを組み込むことによって、コンボゲーの固めに対するアンチテーゼは強化された。

そして何より、上手いプレイヤーは、相手の安易な牽制をジャストディフェンスで捌き、

あっという間に怒ゲージを満タンに。大きな優位性、大きなプレッシャーをシステムによって実現した。

 

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これは初心者の勝てる可能性を潰すシステムでもあるので、

賛否は出ようが、僕が見た究極のサムライスピリッツの姿であったことは間違いない。

 

一つ残念な部分を言えば、ネオジオの4ボタンに対して、カプコン系では6ボタン。

同時押しを介することなく、大攻撃がワンボタンで繰り出せる。

これは、本家SNKのサムライスピリッツでも後期の作品では、キックがワンボタンになり、

そのかわり大攻撃に割り当てられたため、本家と同じといえば同じ傾向なのだが、

とても軽快に大攻撃を繰り出せるものの、強烈な攻撃を繰り出したという実感を

手触りで味わう醍醐味には欠ける結果となった。