鉄拳5 DARKRESURRECTION
■ 対戦格闘ブーム最後のきらめき ■
スト2のヒット、バーチャ2のヒット、これを二大ブレイクとして約10年程度、
対戦格闘ゲームブームが起こっていた。 格闘技ブームとほぼ同時期である。
しかし格闘ゲームも様変わりしないためか、徐々に皆、食傷ぎみな状態になった。
それは、2D、3Dに限らないレベルの話である。
バーチャと相壁をなすライバル、ナムコ(現・バンダイナムコ)の鉄拳は、2大3D格闘と言える存在であったが、
亜流である陰を濃く落としていた。 バーチャの2番煎じのまま、コア人気に留まる傾向にあった。
しかし鉄拳は、鉄拳3で急にバーチャに見劣りしない洗練されたゲームになった。
ゲームとしては、まだまだ大味なバーチャという感じではあったが、世界的に大ヒットし、
4作目にあたる鉄拳TTが更に異例の大ヒットを飛ばした。
この鉄拳TTは、鉄拳で多段の空中コンボを実現させた最初のゲームである。
しかし、5作目にあたる鉄拳4が、リアル路線かつ地味な見た目のせいか全くヒットしなかった。
鉄拳4は暗黒時代とされ、鉄拳プレイヤーが異常に減少していた時期である。
6作目にあたる鉄拳5は、鉄拳10年の記念作品で、鉄拳4で採用されたアンジュレーション(高低差)などを廃止し、
シンプルにまとまった作品のせいか、またもやヒットを飛ばした。
ここで、鉄拳は、完全に空中コンボゲーとして確立された。 以後、その形態は変わっていない。
2000年を過ぎたあたりから、ちょうどこの時期で、格闘ゲームブームは終わりを告げている。
バーチャは4のFT、GGがGXくらいの時期である。
格闘ゲームの新作がアーケードにめっきりでなくなった。
ここから鉄拳は、アーケードインカム一位をその先6年以上ぶっちぎることになる。
何が起きたのか? 格闘ゲームブームは過ぎていたのではないのか?
イマイチ受け入れられていなかったゲームがどう変貌したのか。
鉄拳5は、ヒットしたものの、無限コンボなど調整不足感がぬぐえない作品であった。
調整不足なハチャメチャ感は、鉄拳の伝統である。
その後、無限コンボなどの廃止を目指して再調整された鉄拳5.1が市場に出回って、間髪いれずに、
『鉄拳5DR』が発売された。
ヒットした鉄拳5も、大きく2回マイナーチェンジが行われた。
鉄拳5DRは、再調整、デザイン一新、新キャラ追加、新技導入などマイナーチェンジを施した作品であるが、
これが神調整で、対戦格闘ゲームブームの終焉の最中、最後のきらめきを放った快作になった。
■ ありえないほど単純なゲーム性 ■
鉄拳は、ナムコらしく、単純なゲーム性のゲームである。
反面、ナムコらしからぬシステムの多さを誇る。
初代からほとんどのシステムは、付けたし付けたしで、マイナスされたシステムは、ほとんどない。
当然、鉄拳5になるころにはシステムのごった煮になっている。
それでもなお、鉄拳5は、単純なゲーム性を持っている。 どんなゲームなのか。
浮かせ技狙って空中コンボ。 これを狙うか狙わないか。 それだけの2択ゲームである。
浮かせ技狙わない場合の攻防の幅は相当に広いものの、空中コンボを狙うゲームなので、
結局、その2択になる。
これだけ。これ以上もこれ以下もない。
カプコンのvsシリーズも浮かせてエリアル狙うか、ハイパーX狙うかのゲーム性で単純だが、
鉄拳の単純さは、下手するとそれを凌駕するものがある。
鉄拳3、鉄拳TT、鉄拳4で何が狙いのゲームか迷走している感があったが、
10年記念作品・鉄拳5で、ごくごく単純なものにまとめられた。
鉄拳5DRも、それを継ぐものである。
スト2でいうところの足払い合戦そのものの攻防が主で、
ダッシュ、バクステ、急停止、横移動などを駆使して、相手の技をスカしてこちらの技を当てるのが基本である。
■ 鉄拳修羅の国・韓国 ■
格闘ゲームブームが去った後、格闘ゲームを牽引してきたのは、
他でもない『 闘劇 』である。
故ゲーメスト誌の新声社から、現アルカディアのエンターブレインに引き継がれ、
毎年行われている格闘ゲームの祭典である。
バーチャ信者には悪いが、正直、闘劇というイベント、
3D格闘で盛り上がったケースは実に稀である。
やはりプレイしていない人が見て『 状況がわかりずらい 』 というのが大きいのかもしれない。
その点、鉄拳5、DRは、分かりやすい。
闘劇で盛り上がるという快挙を果たしている。
しかし、盛り上がった背景は、他にある。
韓国人の優勝である。 人気がでた鉄拳5、いきなり闘劇で優勝したのは韓国人であった。
鉄拳2のときのレイのステップに注目が集まり、韓国や台湾勢のテクニックそのものに注目が集まることはあったが、
韓国勢が超えられない壁というような見方はされていなかった。
ところがである。 韓国勢に全く歯が立たず、鉄拳のオフィシャル大会タイトルを韓国に総なめにされてしまう。
また、アルカディア誌で日本代表として韓国遠征した際も、トータルとしては負け越してしまった。
まさに鉄拳修羅の国・韓国の誕生であった。
この厚すぎる壁を超えていく側面もあり、鉄拳5、鉄拳5DRは加速度的にレベルアップ、盛り上がっていく。
■ 単純なのに複雑 ■
浮かせ技を狙うか、狙わずに削り殺すか、そんな2択で成り立つゲーム性。 恐ろしく単純である。
しかしシステムは、加算の連続で作りあげられたものであり、相当に複雑である。
状況判断が非常に重要で、一度ダウンしてしまうと、素人では二度と立ち上がることが許されない。
起き上がる方法に関しては、後転、前転、側転、スプリングキック、クロスチョップ、起き蹴り中段、起き蹴り下段、
牽制キック、牽制パンチ、寝っぱなし、うつ伏せ、仰向け、その場起き、受け身などを駆使して、
相手に悟られないように起き上がらなければならない。 複雑に組み合わせて起き上がることも可能である。
初心者は、後転や側転を使いがちで、これは当たり判定が非常に大きくなるので、
浮かせ技が確定してしまい、読まれるとそれだけで死亡が確定してしまうことも珍しくない。
ダウン中でも、ダウン専用攻撃でなくとも判定さえ合っていれば、どんな技でも当たりまくるので、
寝っぱなしが安全とされているのに、心理的に寝っぱなしでいることはなかなか辛いものである。
安全に起き上がるには、少々のダメージを喰らうのは覚悟しなければならない。
ダウン投げや、いきなり浮かされることだけを回避するのである。
受け身をとれば安心ということもなく、受け身だと一定の方向にしか回避できないので、
浮かせ技で狙われたり、下段技が確定してしまったり、大ジャンプで飛びこされて背後から攻撃されたりする。
たった3回程度の読みあいで、勝負が決してしまうゲームである。
起き攻め、起き上がりに勝負どころが集約されている。
それだけに読みあいそのもの熱さは、相当なものがある。
それ以外のシステムとしても、鉄拳は、無限ステージがあるのが特徴で、
バーチャのようなリングアウトはない。(同社ナムコのソウルキャリバーにはリングアウトがある。)
鉄拳4から壁のあるステージもできたが、それでもリングアウトはないゲームである。
壁に叩きつけて技を決める壁コンボなんてのはある。
リングアウトがなく、無限ステージがあるくらいなので、
1対1のゲームであるのに、ほとんどのステージは非常に広い。
3D格闘は、間合いが離れすぎるのは『 不毛 』とされている。
であるのに、ありえないくらい離れてしまうことがある。
そのため、鉄拳にはランがある。
フロントステップから、ランへと変化させ、走り回ることができる。
三歩以上走ると、ランは自動で無敵タックルになり、回避するのが難しい非常に強力な攻撃になる。
これを軸としたランそのものの攻防も鉄拳の大きな特徴である。
相手の状況に応じて、無敵タックル、ランを止めてガード、スラッシュキック、スライディング、ランクロスチョップなどを
選択して2択をかけていくのである。
相手のガードが堅いと、厳しい2択を迫ったり、投げを狙うのが普通だが、
アルティメットタックルが全員に装備されているため、
立ちからいきなり、寝技の攻防を全員がしかけることができるのも珍しいところである。
相手のガードが堅い場合は、
シリーズ当初から続く、10連コンボ(10連で繰り出す連携技。連続技ではないが、状況によっては連続ヒットする。)や
ガード不能技も工夫次第で、役に立つ。
軽く上下にレバー入力することで横移動ができる。
レバーを入れ続けることで横歩きもでき、3Dっぽく闘うのに重要なシステムであるが、
これが非常に強力で困る。
横方向にかわすわけで、防御に使うシステムのように感じるが、実際はそうではなく、
技をガードさせて、有利フレームを利用して横移動する。
単純な反撃をスカしてしまおうという、攻めに非常に使える防御行動なのである。
これは、ホーミング技や、横に強い攻撃があるので対処していくしかないが、それも万全ではなく、
読みのほうが重要である。
キャラにもよるが、自分から座ったり、寝転んだりできるキャラもいて、
立ちの攻撃がまったく当たらない状況を自分から作ることができる。
この難解さも魅力の一つで、各キャラが、『 反則技 』『 バグ技 』とも言える特殊構えや、
判定の強い技を持っていて、わからん殺しができるゲームである。
わからん殺しをされないためにも、キャラ対策が非常に重要なゲームでもある。
鉄拳5DRは、もともとバグ技の多かった鉄拳5から、かなり調整が加わっている。
しかし、バグ技を減らすどころかむしろ増えたぐらいの思い切りのよい調整が目立ち、
追加技も凄まじく強力な技ばかりで、弱いキャラがいない。
過剰ともいえる調整が、
神がかりに良いバランスを生み、誰でも最強を狙えるゲームを生んだともいえる。
■ オートガード? 投げ抜け? 下段さばき? ■
難解なシステムの中でも、特筆すべきな点がいくつかある。
鉄拳ってやつは、オートガードがついていて、ニュートラルにしておけば、
普通の上段攻撃は、オートガードになる。 つまりデクにしていてたら、上段攻撃は当たらないのだ。
だから、実際厳しいゲーム性なのに、技は当たりにくい。・・・・・・はずなのだが、その恩恵は、薄い。
慣れてきて、中途半端な動かし方だったりすると、オートガードが効かず、余計技を喰らいやすい。
鉄拳は、レバー操作でガードという、3D格闘では珍しいタイプだが、
レバーガードのゲームにおいて、ニュートラルにしておくということが、いかに少ないか思い知られる。
また、投げ抜けであるが、
実は、背後投げや、しゃがみ投げ等以外の投げ技は、必ず抜けることができるゲームである。
左パンチ、右パンチ、両パンチ投げの3種類。 コマンド投げだろうが抜けることができる。
ダウン投げだって抜けられるのだ。
その猶予は、15フレーム。 0.25秒である。
慣れれば、見てから抜けられるというが、なかなか極める道は厳しい。
通常投げや、普通のコマンド投げは、当然、しゃがめば投げられないので、
投げ抜けができなくとも、しゃがんで投げをかわすのも重要で、
そのまま立ち途中の浮かせ技で、相手を浮かせてコンボという芸当も熱い。
ただ、投げ抜けができると、相手の投げを抑制できるため、
非常に攻防が有利になるのは否めない。
いつしか投げ抜けができて当たり前なレベルになってしまったので、
鉄拳というゲームは逆転性は高いものの、初心者が上級者を偶然倒しにくいゲームになっている。
また、中段さばきや、上段さばきの特殊なさばき技を持っているキャラもいるが、
全キャラ共通で、下段さばきを持っている。
キャラが左にいる場合、3を入力するだけ。
ブロッキングなんかのようなシビアな入力ではない。
これを一点読みして下段をさばく。
読みあいに慣れてくれば、この下段さばきを仕込んでおくのが非常に熱い。
体制を崩したところを浮かせて空中コンボしたり、バウンドコンボにもっていくのが、
このゲームの華である。
■ ダークリザレクションの名に恥じぬダークさ? ■
鉄拳5から、DRにバージョンアップする際、ロゴとかビジュアルが当時流行っていたエアロタイプの
デザインに変更され、非常にセンスがよくなった。
ゲーム全体がダークな感じにアレンジされていると思いきや、無印鉄拳5の時点でダークな雰囲気があったものは、
逆に明るい雰囲気にアレンジされており、全体としては明るい方向にアレンジされた。
これは、新キャラであるドラグノフはダークに、復活キャラのアーマーキングもダークに、
新女キャラのリリは派手明るいにという感じでキャラにも反映されていた。
また、ゲーム内で稼いだゴールドで買えるコスチュームも、カッコいいものから、ウケ狙いのものまで幅広く、
とてもセンスがよかった。
また鉄拳シリーズのボスは、弱いのが定番であったが、
鉄拳5、鉄拳5DRのラスボス・仁八は、発売当初は強いボスとして名を馳せたボスだった。
(少し慣れれば雑魚)
■ 打倒韓国!止まらない進化 ■
関西プレイヤーを中心に、打倒韓国効果で、異常な盛り上がりを見せ、
神がかった名勝負が繰り広げられた。
日本のプレイヤーは、こぞって韓国プレイヤーの神技を我が物にして、更に進化した。
打倒韓国の名の元に盛り上がりまくった格闘ゲーム最後のきらめき。
当時を知るものしかわからないかもしれないが、スト2ダッシュ、バーチャ2の頃の盛り上がりの再来かと
思えるほどだった。
DR末期になっても、プレイヤーの進化は止まらず、
背後当てを利用したガード不能(背中に技がヒットするのでガードできない)な起き攻めや、
コンボを途中止めして、更に厳しい起き攻めで一気に相手を葬り去る戦法が
次々と登場し、その後早々に発表される『 鉄拳6 』に代替わりすること自体が信じられない盛況だった。
■ 奇跡の必殺技、風神拳 ■
偶然が生み出した快作と言えるDRだが、鉄拳3以降、脈々と引き継がれてきた鉄拳そのものの魅力が、
風神拳である。
古いファンは、鉄拳といえば、崩拳だろ!という人もいようが、
今となっては、鉄拳といえば、風神拳である。
昇龍拳コマンド+パンチボタンで繰り出す、スライド移動するアッパーである。
知らない人がみれば、ただの移動アッパーでたいした魅力はないかもしれない。
鉄拳3から、最速風神拳も加わった。
コマンド完成からボタン入力までの操作が、2フレーム以内だった場合、
雷のエフェクトがかかり、カウンター性能が向上するようになったのだ。
もはや、最速こそが風神拳であり、三島使いのステータスである。
これが、異常な気持ちよさで、まさに繰り出すだけで楽しい奇跡の必殺技になった。
ストリートファイターが詰まるところ、リュウ・ケンのゲームであるように、
鉄拳は、三島ゲーなのである。
いろんな打倒強キャラで盛り上がっても、個々のゲームの末期になると、
三島使いだらけになるのが、不思議な現象である。
鉄拳5DRが神調整であったのに、鉄拳6は、バウンドコンボ・レイジシステムで即死が増え、
下段とライトゥー(昇り蹴り。浮かせ技である。)が強すぎるという、
攻防無視な鬼調整のゲームで、なかなかのクソであった。
コンボ補正を上げ、下段とライトゥーを弱く調整した、鉄拳6BRは、
鉄拳5DRに近づいた感じで、なかなかいいゲームになった。
時代は鉄拳タッグ2へと移り、ゲーセンは死の道だというのに、鉄拳のその進化は止まらないようだ。